『裁判員になるってそういうことだったのか!』番外編

■裁判員制度をめぐる環境

 A.支援態勢

  *企業の対応

  民間調査機関の(財)労務行政研究所の2008年7月22日~8月8日の調査(ウェブ版)によれば、裁判員制度への対応を約半数の企業が決定済みだった。

●社員が裁判員に選任され,休務する場合の取り扱いを「すでに決めている」企業は46.5%。全体の3割は「今後検討する」。●「すでに決めている」企業の対応内容は,「従来から公務に就く場合の休務ルールを決めており,そのルールを適用」が62.8%で最多。「裁判員休暇」を新設した企業は23.9%。●何らかの休暇を付与する場合,休暇当日の賃金は「通常勤務とまったく同じ(有給)扱い」が全体の9割を占める。

https://www.rosei.or.jp/contents/detail/9684より

 ある程度の規模の企業はおおむね裁判員制度に協力する姿勢を示していると見ていいと思われる。問題は零細企業の経営者や従業員、個人営業・フリーランス等の人々で、参加したくてもできない人もいるだろう。

  *自治体の支援

 裁判員または補充裁判員に選ばれた場合、子育てや介護を理由に辞退を申し出ることもできるが、参加したい人のために全国の自治体が、乳幼児から一定の年齢まで無料で預かったり、介護サービスの利用料を助成するなどの支援策を打ち出している。ただし、国等による規定はないので、自治体によって内容は異なる。

 B.学校教育

 教育現場でも、裁判員制度に関してさまざまな取り組みが行われている。大学はもちろん、高等学校・中学校でも模擬裁判を行っている。

 2009年2月21から23日まで広島市で開催された日本教職員組合(日教組)の教育研究全国集会で、裁判員制度を教材にした中学校の事例が報告された。

 岩手県岩泉町立小本中学では2006年から、授業の中で裁判員制度による模擬裁判を行っている。3年生20人を対象に行った授業では、実際にあった安楽死事件を取り上げた。

 授業への協力を申し出てくれた本物の弁護士が裁判官役、生徒が裁判員役となり、被告人が有罪か無罪かを議論。最初は、患者の家族が医師に安楽死を要望していたことを理由に無罪だとする生徒が多かったが、「家族の要望があればいいのか」「患者自身の意思は無視していいのか」などの意見が出て、最後は半数以上が有罪を選んだという。

 この事例を報告した同中の熊谷貴典教諭(35)は、「人の意見を尊重しながら自分の考えをまとめ、結論を出す。考える力を養う訓練になっている」と、授業の効果を語った。

 集会では、同様に裁判員裁判を授業に取り入れている北海道、東北、九州地方の社会科教師からも、「命の大切さを考える子どもが増えてきた」「やる気を引き出す教材になっている」などの報告が相次いだ。

(2009年2月21日21時40分 読売新聞)

 このような“授業”は、とてつもない効果を発揮するかもしれない。現代の、価値観も定まらず勝手気ままな大人たちから、有意義な学びを期待できない児童生徒たちが、「裁判」という重い課題に向き合い、有罪・無罪/量刑について真剣に議論し、結論を出すという体験をすれば、人間の尊厳を実感すると同時に、他人を尊重し、コミュニケーションを大切にするという思考や心が知らず識らずのうちに培われる。そして、社会的ルールの重要さもしぜんと身に着くだろう。

 若いときに体得したものは終生、忘れないものだ。目的も価値も見(み)出(いだ)すことができず、文明の直(ただ)中(なか)に放り出されて途方にくれ、方向を見失い、荒(すさ)む子どもが多い現代、この“授業”を機に、人生や社会や未来のことをしっかりと考え、思いやりのある深い知性の持ち主に育ってくれそうな気がする。いや、きっとそうなるにちがいない。