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竹のこと通信②-房総の竹屋さん- 文: もぎ ちえこ 作者にメールを送ります
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 千葉県の千倉にあるK竹材店に行くことになったのは、ひょんなことからでした。地域に水道工事があって、断水の連絡がポストに入ったのです。朝の9時から夕方の5時まで水が使えないと書いてありました。といっても水を溜めておけばいいことで、それほど大事ではなかったのですが、いっそのこと出かけてしまえばと考えて、K竹材店のことがひらめきました。2月に油抜きをした竹を、作品制作にずいぶんと使ってしまい、手元がさびしくなったという事情もあります。
 竹工芸に必要な真竹が得られる店として、K竹材店のことは以前から知っていました。一度行ってみたいと思っていたのですが、なかなか腰があがりません。都心から3時間以上かかり、しかも何本も電車を乗り継ぐ必要があったからです。
 真竹が欲しい、ということだけであれば、メールで注文をすればすみました。実際、竹工芸の仲間はメールやFAXで注文し取り寄せています。その場合は送料がかかりますが、車で行っても高速を使ったりするので負担は変わらないそうです。
 でもまだ一度も注文したことはありませんでした。それは房総の竹屋さんそのものに興味があったからで、どんな店なのか見てからにしようと思っていました。インターネットのホームページを見ると、取り扱っている竹の種類も多くて期待できそうです。
 できれば現地に行って、自分で竹を選んだほうがいいと、仲間からアドバイスも受けていました。節間の長いもの、そして太い竹が竹工芸には理想で、注文するさいその旨を記載するのですが、なかなか希望に叶う竹を送ってこないといいます。たまたまそういう竹が手元になかったのか、商品選びに頓着していないのか、そうしたことも知りたいところです。
 急なことでしたが、竹工芸の仲間を誘ってみました。メールで連絡すると、すぐに行きたいという返事が返ってきて、迷わずにすみそうな日暮里駅のホームで合流です。
 そこから東京駅まで行って総武線に乗り換え、JR外房線、内房線と乗り継いで千倉まで向かいます。自宅からの行程を考えるとちょっとした小旅行です。8月の末で、海水浴客も少なくなっているだろうから海にも行ってみようと、呑気にかまえました。
 千倉の駅に着いたのはお昼過ぎで、食事をとってから店に向かいました。今日行くことはメールで知らせてあります。お休みを確認するためにメールを送ったら、来る日を連絡してほしいということだったので、日にちとおおよその時間を返信しました。
 駅前の大通りに出て、右折し線路沿いに少し歩くと長い竹がたてかけてある一画がすぐ目に入ってきました。舗装された道路からそのまま地続きで、工場や倉庫らしい建物が散在しています。ホームページの写真から、店舗やギャラリーも併設しているようなイメージがあったのですが、そうしたものは見当たりませんでした。
 近くの大きな倉庫のなかに人がいる気配がしたのでのぞいてみると、40代ぐらいの男性が1人、作業をしていました。細い竹(笛用とあとでわかりました)を50本近く箱詰めしているところでした。
 挨拶し、少し話をしました。午前中はほかにも作業員がいたが、午後は自分だけだといいます。今は暇な時期で、竹伐りはこれからなので在庫はあまりないと説明し、真竹はあそこと倉庫の2階に目をやって教えてくれました。
 学校の教室2つ分ぐらいの大きさの倉庫で、いたるところに竹がたてかけてありました。天井までの高さは体育館より少し低いくらい、2階といっても部屋があるわけではなく、吹き抜けのままです。正面と左手の壁に添って足場が組んであり、その上に板を渡しただけのロフト風の2階です。倉庫の半分がそんな状態でした。
 アルミ製のはしごがかかっていて、それで昇り降りするようです。足をかける部分が少しへこんでいました。2階までは10段くらいあってしかも傾きは急です。
 先に敷地全体を見せてもらうことにして、あちこちをのぞいてまわりました。倉庫のほかに大小の作業場があって、大きな作業場では扇風機がまわっていました。でも人の姿はありません。倉庫の男性は午後は自分しかいないといっていたので、倉庫と往復しながら作業して、扇風機はつけっぱなしなのか、あるいは午前中にそこで作業した人が消し忘れたのでしょうか。
 屋根はありますがむきだしのまま、敷地のなかには、いろいろな機械が置いてありました。一緒に行った彼女は実家が埼玉の竹屋さんで、今でもお兄さんが跡を継いで営業をしています。そのため幼い頃から火であぶって竹をまっすぐにする作業などを見て育ちました。何のための機械かわかるものもあって、しきりに懐かしいと言って説明してくれました。お兄さんの店は現在は流通が主で、そうした機械はもうないそうです。
 屋外にある機械や道具は、十分手入れされていなくて放ってある感じでした。それで一巡りしたあと、つい現役のものなのか聞いてしまいました。どの機械も作業に必要で、すべて使っているとのことでした。
 彼女が千葉県の竹屋さんの名前をいくつかあげて近況を訊ねました。千葉には彼女のお父さんが商売をしていたころ、懇意にしていた竹屋さんが何軒もあったといいます。共通の知り合いの名前が出て、半信半疑だった男性がほっとした表情を浮かべました。ほかにもいろいろと質問をしたのですが、もごもごとした返事しか返ってきません。
 見知らぬおばさん2人が、メール連絡だけでやってきて、しかも実家は竹屋だったんですとか、あの機械は何に使うのですかとか矢継ぎ早に質問をぶつけるのですから、戸惑って当然です。竹工芸をやっていて、竹が欲しくて、仲間に紹介されてと説明されても、すぐには事情が飲み込めないでしょう。
 もっとも「ヤル気があるんだかないんだかわからない社長(?)だよ」と、一度この現場に来たことのある教室の仲間が感想をもらしていたので、私たちのせいばかりではなさそうです。
 話も途切れたので、さて、ということで2階にあがって竹を選ぶことにしました。高所恐怖症で踏み台にのぼっても足が震えるのに、瞬間的にそうしたことは吹き飛び、はしごをあがっていました。彼女も続きます。
 あがってみてわかったのですが、全部がつながった2階ではなく、所々板敷きの部分があって、その間は横に丸太を並べて渡してあるだけでした。真竹のたてかけてある所まで行くには、細い丸太の上を歩かなければなりません。その丸太もきっちりと並んでいるわけではなく、素通しで1階の床が見えます。さすがに足がすくみました。
「わたしは平気だから」と彼女はその丸太の上をさっさと歩いて向こう側の板場に移りました。素足にサンダルばきです。
 距離にして3メートルぐらいでしょうか。壁の骨組みなどにつかまりながら後を追いました。
 手早く数本の竹を選んで下を見ると男性の姿が見えなくなっていました。仕方なく選んだ竹を横にしてはしごまでもどると、どこからともなく男性が現れ「竹を受け取ります」と声をかけてきました。
 男性の姿が見えなかったので、わかるように選んだ竹を横にしておいたのに、2階から受け渡すとなると、もう一度丸太の上を渡らなければなりません。
 躊躇していると彼女が「私が行くわ」と言ってもう一度丸太を渡りました。彼女は竹はまだたくさんあると言って買わなかったので、受けとってもらったのは、節間が4つの竹が2本と、1つの竹の合計3本です。はしごをおり地面に足が着くとほっとしました。
 費用を払い送り先を告げて駅までもどり、駅員に海の方角を聞いて歩いている間、2人で笑い転げました。男性は、まさか私たちが本当にはしごをのぼっていくとは思わなかったようです。さっとのぼり出したので、声をかける間もなかった。急にいなくなったのは、逃げ出したのかもしれません。
 雰囲気から自分たちで登るしかないと察してのことだったのですが、頼めばかわりに登ってくれたでしょうか。どちらにしても迷惑な行為で、男性には申しわけないと思いながらも、思い出すとおかしくて仕方ありませんでした。
 海に行く途中でもう一軒、竹屋さんを見つけました。さきほどの竹屋さんは雑然とした感じでしたが、この店は掃除も行き届き、竹もきちんとそろえてたてかけてあります。ガラス窓を通して見える事務所内もこぎれいに片付いていました。こうしたところに店主の性格がでると、つい比較してしまいます。 
 誰かいれば話を聞けたのですが、敷地内のどこにも人影はありませんでした。千葉にはたくさんの竹屋さんがあったが今は数軒だけ、と先の竹屋さんが言っていましたが、残った一軒のようです。でもほとんどが竹垣用の竹で、真竹は見当たりませんでした。
 海まで歩いて十数分、連日の猛暑は一段落していましたが、午後の日差しはかなり強く、車がたまに行きかうだけです。海水浴客どころか誰もいない海辺で一休みした後、駅にもどり電車を待ちました。
外房線も内房線も1時間に1本程度のダイヤで、どちらを使っても東京駅までの時間は変わらないと駅員が教えてくれました。電車に乗ったときはまだ空が明るかったのに、ディズニーランドのある舞浜駅では真っ暗になり、かわりに遊び帰りの親子連れがたくさん乗り込んできて車内は明るくなりました。低山と木々の連なりが長く続いた車窓も、気づくとビル群に変わっています。
 いい竹を選んだので、後日送られてくるのが楽しみでした。でも荷物を見た途端、しまったとがっくりです。1節で伐って梱包してくださいとお願いしてありました。それは間に1節残した状態でという意味だったのですが、送られてきた竹はすべて節なしの状態でした。つまり1節分になっていたのです。確認しなかったこちらのミスでした。節なしの竹では小さな作品しか作れません。結局メールで、2節分に伐った竹を注文することになりました。

10/07/2013


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