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東京の竹屋探訪記・番外編 文: もぎ ちえこ 作者にメールを送ります
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 東京の竹屋探訪記・番外編

・富士竹類植物園(2012.11.15)

 秋晴れの一日、竹工芸会の仲間と2人で静岡県にある富士竹類植物園に行ってきました。彼女が、10年ほど前に雑誌「サライ」で見て、長らく行ってみたいと思っていた場所ということで、急きょ実現にいたった次第です。
 品川駅で待ち合わせ、新幹線で三島まで行き、JR東海道本線に乗り換えて沼津へ。そこからJR御殿場線に乗り長泉なめり駅に到着後、タクシーで10分という行程です。ホームページのアクセスには、富士急バスの利用についても書いてあったのですが、問い合わせてみると本数が少なくタクシーを利用することにしました。
 長泉なめり駅のプラットホームから富士山が見えましたが、残念なことに雲が頂上付近にかかっていて全貌は拝めませんでした。
「車で1時間ぐらいで5合目まで行けるので、休みのとき天気がいいと登ってくる」とタクシーの運転手さんが話してくれました。一ヶ月に1、2度は行くそうです。でも「富士竹類植物園」にはまだ1度も行ったことがないということでした。
「送迎で前までは行ったことがあるけれど、竹があるだけだろう」
 日本で唯一のタケ類専門の植物園、種類の多さでは世界一(500種類)といっても、地元の人にとってはそんなものなのかもしれません。
 実際、受付で入園券を買うとき、係りの人は、ひさびさのお客様です、と、驚いた表情でした。私たちが11月に入って初めての来園者で10月はゼロだったそうです。ゆっくり見学していってくださいと、笑顔で送り出されました。
 標高が高いのか、空が間近で明るく、おまけに静かです。入り口から順路にしたがってまわり始めましたが、芝生の土がふかふかしていて歩き心地がとてもいい。でも黒土があちこちで盛り上がっているのに気づきました。
「モグラのしわざね」と彼女が言いました。行く先々にその土盛があって、場所によっては通路を横切って長く続いていました。
 植物園には竹と笹そしてバンブーが植わっています。見分け方が植物園発行のパンフレットに記載されてありました。
「筍が成長し皮が自然にはがれ落ちるものがタケ、皮が腐るまでついているものはササ、そして熱帯産の株立ちのものはバンブー」だそうです。
 あわせて500種類ということですが、竹だけでもたくさんの種類があって驚きました。以前、竹屋探訪記に、「竹はそれほど種類が多くないので・・・」と書いたことを撤回しなければなりません。どの本にも、多くて20種類ほどの竹しか載っていなかったので、名前を覚えられると思ったのですが、それは、竹工芸や竹細工、あるいは竹竿などで利用する竹を紹介したものだったようです。
 名前と特徴を記した名札がところどころに立っていたので、最初のうちはひとつひとつ読んでいました。一節おきに節間が膨れ亀の甲のようになったキッコウチク(亀甲竹)、竹の稈(かん)が四角で、節にはとがったトゲがあるシホウチク(四方竹)、若竹のときは緑色でのちに黒くなるクロチク(黒竹)、茶せんの材料として利用されるハチク(淡竹)、根曲竹、馴染みの真竹、孟宗竹あたりまではなんとかついていけましたが、在原業平のようにスマートで美しいことからつけられたナリヒラダケ(業平竹)あたりでギブアップ。空洞のないコマチダケ(小町竹)など小野小町と関係があるのかなといった具合で、あとは、緑のたてじまが入っていてきれいとか、この茶色や朱色は染料では出せないとか脱線していきました。
 それでも1時間以上、見て回ったでしょうか。竹工芸をしているので竹だけ見ていてもあきないのですが、さして興味のない人には楽しいといいがたいかもしれません。
 園内をひとめぐりした後、さすがに疲れて資料館脇のベンチで休憩しました。すると資料館の女性スタッフが「無農薬の笹茶だから安心して飲んでください」とお茶を運んできてくれました。
「どうして竹の植物園を作ろうと思ったんですか」
「何か特徴のあるものをと探して、竹の植物園は日本にはないとわかってここに作ったようです」
「竹にこだわりがあったということではなくて、どこにもなかったからということなんですね」
 お茶をいただいたついでにいろいろと質問してしまいました。
 1956年(昭和31年)に設立された日本竹笹の会が植物園の運営にかかわっているようです。竹笹の会の会長が植物園の園長でもあります。竹笹の研究やその普及を計るために設立された組織で、会員は300名、竹の研究者から竹細工職人や園芸としての竹に興味のある方々など様々だそうです。「富士竹類植物園報告」という会報が53号まで発行されていますが、現在は休会中ということでした。
 研究資料館を見学することにしました。工芸品や民芸品、漁具、農具、生活用品だけでなく、竹の化石、花や実などあって、こちらも充実した展示で楽しめました。確か漁に使う籠だったと思うのですが、人間が2,3人すっぽりと入りそうな大きな籠をみつけました。写真でしか見たことがなかったので、つい、感激して、編み方がきれいとさわっていたら、そばに展示物には手を触れないでくださいと注意書があるのに気づきました。思わず手を引っ込めましたが、実際漁に使っていたものを持ってきたのではなく、新品を展示してあるようでした。
 竹細工の売店も併設されていて、花籠やお箸などの製品が置いてありました。竹繊維で織ったハンカチーフなど種類は豊富です。近くに静岡がんセンターがあるのですが、その患者さんや家族の方が、天然素材のタオルなどを買いに来るそうです。
 竹の苗の売店もあったので、もし竹があれば欲しいと思ったのですが、これから竹伐りをするので今は在庫がないということでした。見て回った竹のなかに色がきれいなもの、おもしろい模様の入っているものなどあったので、バックの手にしたり、趣のある花籠が編めるのではないかと期待したのですが残念です。
 帰りはタクシーを呼んでもらい、三島駅まで行くことにしました。待っている間に受付の方と少し話をしました。
「土がふかふかでびっくりしました。でもモグラがすごいですね」
「毎夜、園内を運動会しているみたいで。ミミズがたくさんいるので、それでモグラも多いのでしょう」
「見学者が少ないのは残念ですね」
「以前は竹の楽器を使ったコンサートをしたり、筍が出る季節にはお祭りのようなこともしたのですが、今は・・・」
 正社員は受付をしているその女性だけで、あとのスタッフは全員ボランティアということでした。
 あとでインターネットで調べてみると、植物園に植栽されているホウライ竹のなかから厳選して、ケーナを製作するといった話が見つかりました。植物園のホウライ竹は、アンデス地方の音色にぴったりマッチするそうです。ほかにも「釣竿にする竹を取りに来る、その道には有名な場所」といった記述もあったので、来園者は少なくても、案外知られた場所なのかもしれません。
 スタッフの方が話していた「竹酔祭り」の記述も見つけました。カッポ酒(ハチクの中にお酒を入れて燗をつけた竹酒で、竹の成分がとけ出して、まろやかな味わいになる)と筍の煮付けをふるまい、竹林のなかで竹の楽器を使ったコンサートを行ったとあります。そうしたことが廃れたのは、やはり、竹が社会のなかで力を失ったことと関係があるのでしょうか。
 たぶん手が足りないためだと思うのですが、整備が十分でない箇所も目に付きました。竹はどんどん地下茎を伸ばしてしまうので、そのままにしておくと、種がまじりあってしまわないか心配です。
 帰りの車中、植物園の未来について話はつきませんでした。

12/03/2012


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