ホーム トップ > 投稿閲覧室 > エッセイ > 市場の歩き方 15(市場食堂丼バトル)
市場の歩き方 15(市場食堂丼バトル) 文: 山川 洋 作者にメールを送ります
閲読数:[ 572 ]    コメント:[ 0 ] ※クリックでコメントフォームへ

 たいていの市場には、そこで働く人たちのための食堂があるが、最近のグルメブームのあおりか、一般の人たちが大勢押し寄せるようになった。いわゆる「市場飯」というヤツである。日本を代表する築地の魚市場では、だいぶ以前から場内・場外ともに飲食店のガイドブックが数多く発行されており、海外からの旅行者も多い。
 そうした流れが、徐々に地方市場にも及んできつつあるようだ。アベノミクス流に表現すれば、トリクルダウンということにでもなるのだろうか。インターネットのグルメ情報を検索すると、けっこう上位に市場内にある飲食店がヒットしてくる。
 私が通っている(といっても、月二回の市民感謝デーだけであるが)千葉中央卸売市場には、乾物問屋の並ぶ建物の二階に六店の飲食店が入っている。内訳は、和食の店が二店、中華が二店、喫茶・軽食が二店(その他、一階にパンや牛乳、缶コーヒーなどを販売しているミルクスタンドがある)と、まあ一見バランスのとれた構成になっているのだが、このジャンル別住み分けが最近どうも曖昧になってきており、その原因は二店の中華屋にある(と、私は見ている)。
 市場の食堂を訪れる客の多くは、寿司や刺身など新鮮な魚料理を楽しみにしている。すると、当然のことながらどうしても和食の店が賑わうこととなる。築地ほどの規模であれば、魚市場でありながら、ラーメン屋や蕎麦屋、トーストの有名な喫茶店などもマスコミに取り上げられており、連日行列が出来るほどである。
 だが、来店客の絶対数が築地の何十分の一、あるいは何百分の一しかない地方市場では、そうはいかない。特定の店が繁盛すれば、他の店は閑古鳥が鳴く。そこで、侵略行為が発生したのである。
 ある日、一軒の中華屋が海鮮丼を始めた。最初は、ラーメンだけじゃなく、うちでも海鮮丼が食べられますよ的な、ごく控えめな客へのアプローチであった。だが、いくら控えめではあっても、メニューに鮮魚を使用した料理が載れば、もう一軒のほうも黙って指をくわえているわけにはいかない。さっそく追随したばかりか、刺身のみならず天ぷらも品書きに加えた。この流れに便乗してか、いつの間にか喫茶・軽食の店のランチに刺身の付いた割子弁当が登場していたのである。鮮魚をめぐる争いはすでに泥沼化してしまった。
 このメニューの越境行為に、防戦一方となったのは二軒の和食店であった。専守防衛を旗印にしたわけでもあるまいが、中華屋がマグロ丼始めましたというのと、和食店がラーメン・餃子始めましたというのでは、客の心理的効果が逆作用するおそれがあるということを考慮しての選択と思われる。だが、苦渋の判断であったことは十分斟酌できることではあるが、この初期段階において有効な手を打てなかったことが、更なる事態の悪化を招いた。
 中華屋はラーメン・炒飯セットの延長として、ラーメンと海鮮丼やマグロ丼のセットメニューを手掛けるようになり、両方食べたいという一定の客層を取り込んだのである。この時点で、鮮魚しか扱わない寿司屋が閉店した(のちに別な和食店がオープン)。
 だが、まだこれで事態が定まったわけではなかった。
 中華屋はさらに動いた。最初はサブメニュー的な扱いだった海鮮丼を、お得意のセットメニューに格上げしたばかりか、なんと今度は中華屋にもかかわらず、店の看板メニューとしてPRし始めたのである。
 曰く、「市民感謝デー特別メニュー10食限定竜宮丼」。
 中華の看板を掲げた店のイチ押しが、今や海鮮丼なのである。これ以外にも、ヅケ丼、鉄火丼、おススメ海鮮丼、海鮮ウニ丼、ビックリ海鮮丼、北海丼、北海イクラ丼と、和食専門店を凌ぐ勢いである。
 もう一軒の中華屋の看板メニューは「特大海老天丼」と、「穴子一本天丼」である。
 現在、和食専門店の方は、いたずらな消耗戦を避けるべく、近海生マグロを売り物とし、より繊細上質な味を提供することで中華屋との差別化を図っているようだが、今後も気の抜けない展開が予想され、当分この丼戦争から目を離せない。

03/07/2015


閲読数:[ 572 ]    コメント:[ 0 ] ※クリックでコメントフォームへ