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市場の歩き方 10(笹の葉) 文: 山川 洋 作者にメールを送ります
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 鮮魚・精肉・青果・乾物以外にも、市場には様々な専門店が入っている。包丁や鋏など刃物を専門に扱う店。鍋、釜など調理器具中心の店、皿や丼などの食器専門店もあれば、箸置きや爪楊枝等の小物ばかりを扱う店もある。
 実際、これらの店のうちどれかが欠けても、外食産業は成り立たない。仕入れた材料を調理し、きれいに盛り付けることで、はじめて客に提供できる料理となる。この「盛りつけ」という部分こそが、家庭料理と外食店で提供される料理を分ける重要なポイントとなる。
 今回は、その辺の話をひとつ。
 和食を例に取れば、(メインディッシュがハンバーグだったり、ロールキャベツだったりしても)ご飯に味噌汁という基本形は揺るがない。焼き魚に野菜の煮物、青菜のおひたし、箸休めのきゃらぶきなどという献立は、別段珍しくもない取り合わせであり、翌日になれば何を食べたかさえ記憶に残っていない。
 では、少しばかり上等な和食の店で焼き魚定食を頼んだとしたらどうであろうか。おそらく同じようなものが供されることだろう。値段にもよるが、せいぜいもう一品茶碗蒸しが付くか、食後にデザートが用意されているくらいのものである。
 同じような内容の食事をしたにもかかわらず、両者を比較すれば、家庭料理よりも外食の方が満足度が高い。
 これはいかなる理由によるものか?
 プロの料理人と一般の主婦の調理技術の差ということもあろうが、それ以上に盛り付けによる差が大きい。料理屋の料理にあって家庭料理に欠けているものは、料理を美しく見せるための演出である。
 ご飯茶碗や汁椀も年中同じ。おかずを盛る皿も、とんかつでも煮魚でもいっしょ。
 これでは、まるで給食のようで、食後の充実感もおのずと低下せざるを得ない。そこへ行くと、外食店では盛り付ける料理の種類によって器を使い分けるし、季節によっても変えている。
 もちろん、一般家庭において季節に合った器を取りそろえるというのは、よほどの好事家でもなければ出来ることではない。そこで威力を発揮するのが葉っぱなのである。食べられないけれども、料理の彩りとして添えられる花や木の葉が重要な役割を演じる。
 例えば、ここに一尾の鯛があったとして、入れ物がプラスティック製の皿や、洋皿ではいささか場違いな感じは否めない。それが同じ鯛でも、木桶や竹笊に杉の小枝を敷き、その上に据えれば、思わず舌なめずりも出ようというもの。
 こうした需要に目を付けたのが「葉っぱビジネス」である。四国の山奥に住むお年寄りたちが、山里から料理用の葉っぱを集めて都会に出荷し、けっこうな高収入を得ているということで、地方版ビジネスモデルの成功例としてマスコミに取り上げられている。
ということは、いかにプロの料理人達が、調理の技術だけでなく、料理を彩るということに神経を使っているかということの証左でもある。
 葉っぱで見栄えが良くなるのであれば、真似をしない手はない。
 そこで目を付けたのが「笹の葉」である。
 焼き魚でも煮魚でも、もちろん寿司でも刺身でも、笹の葉はオールマイティに使用できて、高級感を演出する。市場には、こうした盛りつけ用の材料を扱っている店もあり、サイズの揃った大きなクマザサが、百枚単位で束ねられ、真空パックされたものが売られている。一枚単価にすれば五~六円くらいのものである。これひとつで、料理が劇的に変化するのである。
 例えば、アジの塩焼きを考えてみよう。スーパーで買ってきた一匹百円程度のアジを、ガスレンジのグリルで焼き上げて、いつもの皿に乗せれば、いつも通りのアジの塩焼きで、何のありがたみも湧かないが、その下に笹の葉を一枚敷くことによって、ぐんとアジの塩焼きの価値が増す。さらにはじかみの一本も添えれば、まるで料亭料理のようで、畏れ多くて箸をつけかねてしまう。(それほどでもないか)
 この手は刺身にも使える。スーパーの見切りで三十パーセント引きになっていた刺身盛り合わせを買ってきたとしよう。そのままポンと食卓に出せば、家族の反応は(なるほど、安くなっていたから買ってきたのだな)というものでしかない。ところが、大皿に数枚の笹の葉を敷いて、マグロはマグロ、タイはタイ、ホタテはホタテ、イカはイカと、見栄え良く配置し、刺盛りに付いていたダイコンのツマや大葉を適宜散らせば、まあ、なんということでしょう。匠の手によって、刺身たちは見切り品から、それは豪華なメーンディッシュへと変身したのです。
 キッチンから追い払っておいて、刺身の変身過程を知らない家族たちは、きっと驚きの声を漏らすに違いありません。一匹百円のアジと見切りの刺身が、笹の葉の魔法で料亭料理へと大変身。たった数十円分の笹の葉で、優雅な雰囲気の食卓が演出できるのです。
 ただ、困ったことに、外食していても、つい笹の葉やら飾り付けもろもろの付加価値を値踏みしてしまうので、純粋に料理が楽しめなくなるという弊害が出ることもありますので、どうぞお気を付けて。
 
 

11/01/2014


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